RAW現像もいいけど撮って出しにこだわりたい理由

2020-04-27
PENTAX K-3による撮って出し

撮って出しってなに?

カメラで撮ったまんまの画像(作品)のことです。撮って出しというとカメラ任せのオートで作り出された写真というイメージを持つ方もいるかも知れませんが、デジタルカメラには(一眼レフやミラーレス一眼)には実はしっかりと絵作りするための機能が搭載されています。中には撮影時には呼び出せずカメラ内RAW現像からでなければ処理できない機能もありますが、ここではカメラ内RAW現像まで含めて「カメラだけで作れる範囲の写真」を撮って出しと呼ぶことにします。

余談ですけど、スマホだと撮影から編集まで一台でこなせてしまうので、どこまでが撮って出し?なんだろうという疑問が湧いてきます。この辺りの線引きは過渡期的なゆらぎがあるでしょうし、徐々に一定の認知に収斂するのでしょうし、この記事でコンピュテーショナル・フォトグラフィーとかその手の話まで拡げるとややこしくなるので今回はいわゆるカメラ専用機(一眼レフ・ミラーレス、コンパクトデジタルカメラ)での話に限定します。

余談ですが、PENTAX製カメラのカスタムイメージで作る撮って出しのレシピ集も公開していますので、よろしければそちらも合わせてご覧ください。出先でポケットリファレンス的につかえるものを目指しています。

写真をカメラで作るか、PCで作るか

ひとまず(この場での)撮って出しが何かというのが決まったところで話を次に進めましょう。

デジタルカメラ(が生成する)写真的なデータには大きく分けて二通りの形式があります。それが撮って出し(JPEGやTIFF)とRAWと呼ばれるもの。撮って出しについては冒頭で触れたので、もう一方のRAWを乱暴に説明するとイメージセンサーが受けとった光をそのまま(生=RAW)記録したデータです。

一般的にRAWは撮って出しの画像を出力する前の豊富な情報を持っているのでRAW現像をすることで非常にリッチな画質を得られると言われます。しかしそのままでは画像として扱うことができないのでカメラ内のRAW現像機能を使うかPCなどでRAW現像ソフト(Adobe Lightroomなど)を使うことで画像化する必要があります。

結局どっちにしろ画像化(JPEGなど)するんですが、ざっくりと現場で作るか、後で作るかの違いだと思ってください。

以前はRAW現像してこそと考えいた

さて、撮って出しの話の本題に入る前に、以前の個人的な考えを述べておこうと思います。それが「RAW現像をしてこそ」ということ。というのも画面全体のメリハリのバランスをワンショットで作り込めるなんて驕りだよぐらいに考えていたからです。その点については今でも間違いだとは考えていないんですが、RAWで記録しておいた方が情報量は豊富なことも間違いではないですし、当時はカメラの絵作りの機能がどこまでできるのかということへの理解が不足していたところもあります。

そんな考えを持っていたなか、ふとRAW現像を優先した露出(例えば後処理を考えてアンダー目に撮るなど)ではなく、その場で適切だと考える露出で撮影することを試してみると「これで良いんじゃないか?」という気がしたのです。その結果、ニコンのカメラ用のカスタムピクチャーコントロールを作ってみたり(本サイトのダウンロードページからダウンロードできます)と撮って出しのポテンシャルが気になるようになっていきました。

撮って出しのメリット

先ほど一般的にはRAWで撮影する方が高画質と言いましたが一概にそうとも言えないのが面白いところ。撮って出しで写真を撮るメリット魅力のひとつがカメラの持つ映像エンジンをフルに使えるということです。

映像エンジンとは
CANONならDIGIC、NikonならEXPEED、SONYはBIONZと呼ばれるイメージセンサーで得たデータを処理するためのチップです。それぞれのメーカー・カメラごとに色やノイズ処理を高速に最適化する役割を持っています。世代が新しくなるほど処理性能が高くなり同じイメージセンサーを使っていても撮って出し画質が向上するということもあります。

撮って出しとLrightroomでのRAW現像の比較

専用にチューニングされた映像エンジンを通して、階調やノイズ、シャープネス処理をできるのは撮って出しの大きな武器です。RAWで撮影すれば1ピクセルあたり12~14bit、対して撮って出しは多くの場合8bitという色深度の差があり、撮って出しは情報量でRAWに対して不利にも思えます。しかし上の比較画像を見ての通り、映像エンジンによる階調・ノイズリダクション・レンズの補正処理(対応レンズならば)やシャープネス処理によって、鑑賞者の感じる画質という面において色深度の差をひっくり返すということも往々にしてあるのです。

RAW現像ソフトのデファクトスタンダードとなったAdobeのLightroomシリーズは多様なカメラに対応し、強力な管理機能も持ち合わせていますが、専用の映像エンジンと較べると甘いこともままあります(逆の場合もあります)。

そして絵作り機能を駆使する撮って出し最大のメリットと言えるのが、現場で完成形に近い状態を得られるということです。事前に習熟する必要はありますが、被写体を目の前にしながら作り込んでいける選択肢を持てるのはとても心強いことですよね。

撮って出しのデメリット

PCでのRAW現像と比較して調整ステップの大ざっぱさは否めない

カメラメーカーやモデルによっても変わるのですが、基本的にカメラボディにあるボタンやダイヤルを使って操作するため、絵作りのためのパラメーター調整がPC上でのRAW現像と較べて大ざっぱにならざるを得ません。違うメーカーのカメラを併用すると絵作りの方法論が違ったりして戸惑うことがあったり…

また、どのような調整結果が得られているのかを背面LCDやEVFでしなければならないので、明るい屋外で見えにくいということはもちろん、色空間にAdobeRGBを指定していると少なからず勘に頼らざるを得ないといった点はデメリットと考えられます。(それを補うためにヒストグラムを見てどのぐらいの結果になっているかイメージする必要があります)

写真はあくまでイメージが主役

撮って出しにしても、PCでのRAW現像にしても大事なのはイメージした画を作れるのかどうかということ。

それぞれ自分なりのベターなアウトプットを得るための方法論でしかなく、どちらが優れいてるとか優劣の話ではありません。映像エンジンを始めとしたカメラの機能をその場でフルに活用できる撮って出しが適する場合もありますし、RAWの情報量を活かして丁寧に後処理をすることで得られる画もあります(特に星景写真は)。

あくまでイメージが主役。そのために必要な方法を選ぶ。現場にラボを持ち出せるのが”デジタル”カメラ。それを活用しないのはもったいないなというのが撮って出しにこだわるようになった理由です。

おまけ

最後にちょっとおまけというか余談です。

撮って出しの品質がいいカメラというとFUJIFILMのXシリーズを思い浮かべる方が多いかと思います。私自身、以前X-T20を使用していたときにそれは感じていましたし、RAWの情報量と映像エンジンのメリットを両方活かせるX RAW STUDIOというパッケージもとても素晴らしいですよね。この仕組みは各社マネして欲しい。

と、FUJIFILMの撮って出しが素晴らしいのは今さら私が語るようなことでもないんですが、最近PENTAXのカメラを使うようになって感じたのは撮って出しがいいカメラにも二つの種類があるということです。

一つはメーカーがリファレンス的にある程度の枠組みを用意して仕上げるタイプ。FUJIFILMは(CANONやNIKONもかな)はこちら。もう一方が多様なツールを用意するのでユーザーが思う存分作り込んでねというタイプ。PENTAXやOLYMPUSがこっち。

どちらが良いとか悪いという話ではないので、機会があったらそんなことを考えながら絵作りの機能を触ってみてもらいたいなと思います。カメラを作る人々の熱意を垣間見ることができるかも知れませんよ。