部屋というフィールドでも無限の学びはある
ライティングには様々な学びがあります。写真がうまくなりたいのならここは避けて通れない。それは風景・ネイチャーがメインフィールドであろうと例外ではなく、構図だとか視線誘導だとかそんなことよりももっと本質的な技術。部屋の中で模型を撮影するライティングでさえ、世界を壮大に描く技術に繋がります。
その辺りの何がどうリンクするのかといった話は別の機会に譲りますが、今回は部屋の中に無限の宇宙を現出させようという試みです。題して「背景さよならライティング」です。
プラモというベストプラクティス
実際のライティングを考える前に、被写体にプラモデルが適しているという話をしたいと思います。練習になれば被写体はなんだっていいんですが、プラスチックという安っぽさの代名詞みたいな素材と、パーツが組み合わさってあるモチーフを構成することで表出する意味性を併せ持つということがプラモデルがベストプラクティスになると私が考える理由です。
簡単に言うと、指輪や時計といったそもそも質感を求めて作られたものよりも、ライティングを失敗すると顕著に失敗がわかる、逆に上手くやることで見違える結果が得られる素材がプラモデルということです。
光の方向性、質感を考えないとこうなるという好例です。あまりのふがいなさに空を仰いでしまいました。
この失敗写真はグリッドを付けたストロボ1灯で撮影したものですが、冒頭の写真はストロボ2灯(1灯はソフトボックス)にレフとC-PLという構成です。単に1灯だから失敗で、光源を増やしたから成功かといえばそんな単純な話ではないので掘り下げてやっていきましょう。
被写体の「らしい」要素はなにかを考える
今回の被写体はアニメ「マクロスΔ」の劇中に出てくるVF-31Jという架空の可変戦闘機、のプラモデル。宇宙も飛びます。こういった設定は仮想の光線状態を考える際にもいいとっかかりになります。もし実物であったらどのぐらいのスケール感を持つのか、どんな質感なのか、どんな環境なのか。さまざまな「らしさ」を含み、むき出しのプラスチックをどうすればそれ「らしく」見えるように撮影できるのか。逆説的に「いかにしてプラスチックらしさを消失させて、被写体のフォルムから想起される質感を与えるか」です。
Walkureはいいぞというのは置いておいて、その答のひとつが背景を虚無の彼方へ追いやる「背景さよならライティング」でした。宇宙空間の想定です。星の瞬きはありませんが、大きな平行光源と被写体の背後に光が戻ってこない虚無を作ることで、「らしく」見える空間を画面の中に構築します。
それを実現するために組んだのがこのセット。模型を支えるスタンドの処理は別途考える必要がありますが、そのスタンドが接する地面やすぐ後にある背景はすでに虚無。
単一の大きな平行光源(つまり恒星)を軸に組み、被写体以外にはとにかく余計な光を当てないことで無を作るというシンプルな話です。
実際には画的な事情で下面のディテールを起こすためにレフを使ったり、航空機の顔となるノーズにハイライトを入れるためにサブのライトを使ったりすることになりますが、基本はシンプル。メインの光の質をコントロールしながら余計な光をとにかく捨てる、その一環としてシャープなエッジを作るためにC-PLを使います。
C-PLは反射をコントロールするレンズフィルターですが、とりあえず最大限効かせればいいというものでもありません。モデリングランプがついているストロボならばそれを頼りに効き具合の加減を調節できますが、今回使ったTT600などのクリップオンストロボでは発光させてみないと分からないので、LEDビデオライトなどを使い大ざっぱに予測をたて、エッジが引き立つように追い込んでいきます。
撮影するモノや想定するシーンによってケースバイケースなのでさほど参考にはなりませんが、今回の撮影データは D800E Micro-Nikkor 105mm f/2.8G f/22 1/160 ISO400 となりました。ストロボ光以外がほぼ影響しない(部屋の照明だけで撮影すると真っ暗)という設定です。
もうすぐ年末年始休暇という方も多いかと思います。お正月に退屈しそうだなと思ったら、ばっちりライティングをキメたおせち料理でTLに飯テロしてみるのはいかがでしょう?