望遠レンズで作る量感と遠近感の構図

2019-07-21

連続で作る作る量感と遠近感

公私ともにかなりバタバタしていて、ずいぶん久しぶりの更新になってしまいました。それなりに確信が持てる作例を持って更新するという都合(勝手なこだわりです)のため、もともと更新頻度は高くありませんが…

私の近況はさておき、今回は風景の壮大さを演出していくためにはどんなアプローチが取れるか、ということを考えてみます。

広い・大きい風景≠広角レンズの出番

広大な風景を目の前にすると、ついつい広く撮るために広角レンズを選ぶという方も多いと思います。しかし広角レンズはレンズの特性が画面に及ぼす影響が強く、そのアプローチが有効なシチュエーションと逆効果になるシチュエーションが明確にあります。

広角の特性が逆効果を生んだ例
広角の特性が逆効果を生んだ例

こちらは14mmという焦点距離の画角が逆効果となってしまった例。超広角レンズの醍醐味でもある強烈なパース。うまく機能すると大きさをより強く伝えることができる効果です。しかし、広いからといってやみくもに超広角で撮影しようとすると、安直に目の前にあるラインで線遠近法に頼ってしまい「だからなに?」といった写真になりがちです。

消失点があるだけでアイキャッチになるものもない

写真の構成要素を見てみると、木道を中心として奥の木に向かう1点透視の線遠近法で構成されています。消失点で視線を集めるはずの木は広角レンズで撮影しているため肉眼で見るほどのインパクトはなく(広角レンズは遠くのものはが極端に小さく写る)、効果に振り回されている好例です。

主題が小さすぎて視線の圧力を受けきれない

消失点に向かう視線の流れの圧力に対してメインオブジェクトの存在感がなさ過ぎて、足下から流れていった視線がアイキャッチになるはずの木を超えて画面の向こうへ突き抜けてしまい、シチュエーションに対する画角の選択は完全なミスマッチを起こしています。図の中に書き込んだテキストの様に主要オブジェクトなのに小さいというだけでなく、このシチュエーションでのもうひとつの主要な要素「霧」の影響でコントラストも低いことから画面全体を使った視線移動の力を受けきるビジュアルウェイトたり得ません。

近くのものは極端に大きく、遠くのものは極端に小さく写る超広角レンズで遠景を主題に置く場合は注意したいポイントです。

このシチュエーションで広角を使うなら?

この記事の本題は、望遠で作る遠近感と量感がテーマなので話が逸れてしまうものの「これは失敗でしたねー」だけで終わってしまってはもやもやするので、ここ(の近く)で広角使うならどうすればよかったのかという例が下の写真。

伝えたかったのは広がりのある空間

この場所で伝えたかったのはしっとりとした空気と雄大に広がる空間、そして力強く生きる木々や草花。主役は命であって木道ではありませんよね。

伝えたいものを考えれば自ずと構図は決る

何を伝えたかったのか、画角による影響は何か何か、それはメリットなのかデメリットなのかを考えると構図は自ずと決まります。広角写真でよく見る画面下部で不自然に歪んだ花や石。それらは本当にそこで活きるのか、手段と目的がひっくり返っていないか、シャッターを切る前にもう一度自問すると見えてくる風景が変わるかも知れません。

そもそも、広大さや巨大さを表現するために必要なのは必ずしも強いパース効果だけではありません。量感やオブジェクトの連続性からでも遠近感は演出できますし、なにより「その場で何を感じて、何を見せたかったのか」ということから画角(や機材)を選びたいですね。

シチュエーションから感じた情報は何か?必要だった画角は?

ここで改めて状況を整理してみましょう。

ロケーションは長野県の霧ヶ峰、なだらかな丘陵と湿原で構成される雄大な風景です。天候は小雨で全体的に霧が発生していて空気はしっとりとして光は柔らかい状況。

車山山頂のレーダーや鳥居、物見石といったオブジェクトもあるにはありますが、霧に覆われたこの日の風景の中でキャッチーなアイテムかと言われるとちょっと微妙。むしろ雫に濡れた植物がもつ表情や、霧により強調される空気遠近法を用いて、たおやかな高層湿原の姿を捉えるアプローチがベターと考えました。

連続で作る作る量感と遠近感
D800 + SIGMA 70-200mm F2.8 Sports | 70mm F5.6 1/1250 ISO200

そんなアプローチで撮影したのがこちらの写真。先ほどの広角(14mm)と撮影地点はそれほど離れていませんがアプローチはまったく違います。このシチュエーションにおいて遠近感の演出には量感を絡めたアプローチが有効と考えたからです。

奥へ視線を押し上げる

視線を押し上げるライン

まず線形要素の扱いから考えてみます。広角では「沿わせる」形で線形要素による視線誘導を使いましたが、中望遠のこちらでは「押し上げる」形で線を扱っています。手前から平行に並んでいる線によって奥へ奥へと視線を押していき、効果を高めるために絞りは浅めのF5.6としています。

開放のF2.8ではボケが強すぎ押しつけがましいですし、パンフォーカスまで絞ると手前の茂みが不必要にうるさくなってしまうというところからF5.6を選んだのですが、同時に「この風景をみている私」を意識させる役目もおっています。

経糸になる類似オブジェクトの連続

線形要素を横方向に配置したことで押し上げの効果を作りました。そこに視線を狙った場所へ流していくための経糸として類似オブジェクトを配置します。「します」というか自動的にそうなるのですけど、似たようなオブジェクトをある程度の指向性をもって画面内に連続して並べることで明確に視線を誘導することができます。

視線を誘導する力

縦と横が合わさると紫の矢印のように大きく緩やかな流れとなります。視線の大きな流れで遠近感を作った上で霧のグラデーションがしっかり出る露出を探す。

もともと遠くになるほど霞むという現象を再利用したのが空気遠近法ですが、霧の際はそれがさらに強く出るので加減が大切です。徐々にディテールが失われていく様子を表現することで、大きな空間に広がった空気の量感を伝えることができますし、湿度を含んだ空気の質感も伝わります。加えて望遠気味の画角なので広角よりもオブジェクト一つ一つが大きくディテールを語ることもできます。

まとめ

今回は広角のデメリットから望遠気味の画角でアプローチする有効性についてまとめてみましたが、シチュエーションと選択するレンズ(画角)について、そこでは何が有効なのか、何を表現したかったのかをしっかりと考えていきたいですね。

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