たまには機材の話もしてみましょう。今回はこれまで私が使ってきた5本のマクロレンズです。
いわゆるおすすめマクロレンズであったりレビューとせずに印象とした理由はそれぞれ所有していた時期が揃っていなかったり、比較のために同条件での撮影をしていないからです。つまりは感想や印象ですのでその点を踏まえてお読みください。
目次
マクロレンズとは
それぞれのレンズについて触れていく前にマクロレンズとは何かということを簡単に説明します。
撮像面(センサーやフィルム)に対して原寸大以上で撮影できるレンズのことです。35mmフィルム(またはフルサイズセンサー)の撮像面が36mm × 24mm。その面積へ同じサイズ(等倍)以上で撮影できるということですね。35mm判を実寸で鑑賞するということはあまりないので、プリントしたりディスプレイで見る場合は実際のサイズ以上になりちょっと混乱してしまうかもしれません。あくまでマクロレンズの等倍とは撮像面に対して等倍ということです。一般的にマクロレンズと呼ばれるレンズは最大でも1〜1.2倍程度なので厳密にはマクロではないとも言われているのですがあまり細かいことを言うのはやめておきましょう。
実際にはフィルムサイズをそのままのサイズで鑑賞することはないと思いますので、プリントしたり画面で見たりするとかなり大きく写ります。とにかくグッと寄れて大きく写すことのできるレンズです。(ニコンは律儀に定義に沿ってマクロではなくマイクロと呼んでいますが)
また、被写体をそっくりそのまま精密に写し撮ることを目的としているので歪曲収差などの歪みは徹底的に排除され、近接撮影能力も高く設計されているものが多いのが特徴です。
標準マクロと(中)望遠マクロ
現在マクロレンズと呼ばれるレンズは主に50~60mmの標準域と90~105mmあたりの中望遠域が定番になっています(過去には20mmや200mmなんて超広角や望遠のマクロレンズも)。焦点距離の違いはそのまま画角の差になるのですが、マクロレンズの場合はライティングに及ぼす影響も考慮する必要があります。
というのも、撮影倍率が高くなる撮影の場合ワーキングディスタンス(被写体との距離)が通常の撮影と較べて圧倒的に短くカメラやレンズ自体が影を作ってしまうという状況が起こります。この時、標準域では被写体に近すぎて扱いにくいというケースがあり、そんな事情から最初に選ぶマクロレンズは90~105mmぐらいの中望遠域が使いやすいと思います。
OLYMPUS ZUIKO DIGITAL ED 50mm F2.0 Macro
オリンパスのフォーサーズ(一眼レフ規格)用マクロレンズです。実際の倍率は0.5倍ですがフォーサーズ規格は35mm(フルサイズ)判換算の倍率が2倍なので35mm判換算で等倍のマクロレンズとなります。フルサイズ用の100mm F2(被写界深度はF4相当)の等倍マクロレンズと考えると比較しやすいかと思います。
このレンズは自然な立体感がクセになるとてもお気に入りのレンズでした。AFは遅くフォーカスリングもスカスカで操作性はありていに言って褒められたものではありませんが、それを補ってあまりある描写と画面の作りやすさを持っています。オリンパスのフォーサーズレンズはSHG/HG/STDと3つのグレードに分けられこのレンズはHGに分類されていましたが、ネット上では隠れSHGと呼ばれていたことからもこのレンズの評価がうかがえます。
開放F値が2と明るくフォーサーズ規格なのでフルサイズに対して被写界深度も2段分深いことがとにかくいい方向へ働いた1本。近接撮影時は被写体との距離が短く被写界深度が浅くなりがちなのでフルサイズ比で同じF値(明るさ)であれば2段分深くなる被写界深度はフォーサーズフォーマットならではの特徴です。
もともとの定価も抑えられていておさいふにやさしいのもうれしいポイント。すでに販売終了していて中古でだいたい2万円台で購入できると思います。撮影倍率を等倍にするエクステンションチューブ「EX-25」やフォーサーズ>マイクロフォーサーズアダプター「MMF-3」なども(中古などで)揃えるとプラスで1万円ほど必要になります。
SIGMA MACRO 50mm F2.8 EX DG
通称カミソリマクロと呼ばれるSIGMA MACRO 70mm F2.8 EX DGの兄弟レンズ。描写傾向はそのままに画角が標準ド真ん中の50mmになったと思って間違いはないかと思います。私はマウントアダプター(COMMLITE製)を介してEFマウント用のレンズをSONY α7IIで使用していました。
マウントアダプター経由でのAFは合焦できればラッキー程度の動作でしたが、たいていの場合MFで事足りてしまうので絞り制御さえやってくれればMFしか使えなくてもなんら問題はありません。フォーカスリングはとても軽いですが扱いにくさはなくストレスはありません。
描写はカミソリマクロの名の通りピント面は透明感があり鋭利にキレが立ち、ボケもざわつくこともなく自然につながります。もちろんマクロレンズなので隅までキッチリですし最短18.8cmまで寄れるので使い勝手の良い標準レンズとしてもおすすめできるレンズです。(ただし標準単焦点としての使い方をメインに考えているなら一般的な単焦点を選ぶことをおすすめします)
NIKON Ai AF Micro-Nikkor 60mm f/2.8D
マクロと呼ぶと怒られる(かも知れない)Micro-Nikkor(マイクロニッコール)です。最新世代の60mm f/2.8Gではなく一世代前の2.8Dです。私が当時使っていたD750用にこのレンズを選んだ理由は、AFが使えてかつ絞りリングも備えていたことにつきます。絞りリングが必要だったのはフィルムカメラであるF3でも使えたから。
やや消極的な理由で選んだレンズですが、D750で初めて撮影した写真を見て驚きました。克明に写すとはこういうことだと言わんばかりにシャープで逆光などものともしない逆光耐性。
コントラストが高く色が鮮やかに乗ることでポートレートなどには向かないかも知れませんが動物など生命の力強さを表現するには良いレンズだと感じます。
2023年現在、ニコンもメイン市場がミラーレスのZマウントへ移行した影響からか相場は記事公開時の2018の2万円弱から1万円強まで下がっているようです。後継のGタイプとは描写傾向もかなり違い個性的な描写をするので得がたい1本かも知れません。
NIKON AF-S VR Micro-Nikkor 105mm f/2.8G
一眼システムをOM-D E-M1 MarkIIからD800Eへ移行した際に必須条件にしていた等倍レンズとして購入しました。手ブレ補正VRに対応しインナーフォーカスなのでレンズ長が変わらないので使いやすいマクロレンズです。個人的に中望遠の寄れるレンズとしてMakro-Planar T* 2/100を持っているので、中望遠レンズとしてというよりも純粋にクローズアップやブツ撮りが中心の用途です。
今はまだ所有していませんが、テレコンバーターTC-14E III/TC-17E II/TC-20E IIIに対応していて望遠レンズ代わりに使えそうなのも面白いところ。(2023年現在、テレマクロレンズはほぼ絶滅しているのでテレコンが使えるマクロレンズは貴重な存在です)
描写傾向としては同じMicro-Nikkorを冠しているのに前述の60mm f/2.8Dとは打って変わって非常にニュートラルな写りです。趣味として面白いか面白くないかを問われれば面白くないレンズと感じますが、裏を返せば客観的な情報を得るためのレンズとして非常に優秀だと言えます。
Carl Zeiss Makro-Planar T* 2/100
最後はCarl ZeissのMakro-Planar。最大撮影倍率が0.5倍なのでレンズ名にマクロと冠されていても心の中でちょっと引っかかるレンズですが、今回の5本の中で撮影体験という面において群を抜いて楽しめるレンズであることは間違いありません。
滑らかなフォーカスリング、ファインダーのなかでピント面が移る様、そして描き出される写真。そのどれもが官能的です。風景でもスナップでもポートレートでも、そして難しい光線状態でも難なくまとめてしまう不思議なレンズ。等倍を必要としないなら一度は手にして欲しいMFレンズです。
変則的な使い方ですが、マウントアダプターを介してマイクロフォーサーズボディで使用すると200mm F2相当の等倍マクロとして使うことができます。ミラーレスボディではピーキングなどのMF支援も充実していますし、(川や崖を挟んでいて)足場が悪く被写体に近づけないといった場合には頼もしい限りです。
※ Makro-PlanarはモデルチェンジしてMilvus 2/100Mとなっています。外観は大きく変更されたものの光学系に変更がなかったため、メカニカルな外観の旧型に人気が集まり中古相場でもプレミアが付いている状況です。
SIGMA MACRO 105mm F2.8 EX DG OS HSM
気がついたら6本目(TG-5も含めるとしたら7つ目)のマクロレンズを手にしていました。NIKON AF-S VR Micro-Nikkor 105mm f/2.8Gとは焦点距離・開放F値ともに同様のスペックですが描写の傾向は大きく違います。その違いについては以前に比較記事としてまとめていますので詳しくはそちらをご覧ください。
大ざっぱに印象をまとめると非常にニュートラルなNIKON AF-S VR Micro-Nikkor 105mm f/2.8Gに対して、目を見張るようなシャープネスと素直なボケで透明感のある描写です。一方で逆光に弱いというほどではありませんが、逆光に近いシチュエーションではふわっとフレアが入りシャープなのにファンタジックという不思議な描写を楽しむこともできる面白いレンズです。
すでにディスコンとなっているので中古で見かけたなら買っておいて損はない1本だと思います。