登山時に見た景色を再現するRAW現像(階調と空気遠近法)

2018-05-13

新緑の中禅寺湖と男体山

登山やハイキングなどをしながらいい眺めだな〜と撮った写真が印象と違っていたということはよくあります。後から人がやってくるとか光が強くてファインダーがよく見えないとか要因は様々ですが、アウトドアで歩きながら1発で狙い通りの写真にするのは難しいものです。そんな時は±1段(計コマ)のブラケットでRAW撮影しています。

さて、今回はそんな状況で撮影されたRAWデータを実際の登山中に見た景色の印象(いわゆる記憶色)に現像で仕上げるという話です。
※RAW現像はAdobe Lightroom Classic CCで行っていますが具体的なパラメータや操作方法などは詳細には触れません。

STEP1 RAW現像の準備

まずはRAW現像の準備から。読みこんだままのデフォルトのRAW(左側)にレンズ補正とプロファイル(旧カメラプロファイル)からカメラニュートラルに設定した上で何をすべきか整理します。

ここまでの状態で露出が不足気味ということ、全体的にマゼンタ被りが強いこと、霞がかっていてスッキリしないことなどが作りたいイメージ(現地で見た印象)からズレていると目星をつけます。

STEP2 ホワイトバランスを修正する

ホワイトバランスを修正する

露出を補正するにもまずは基準を作らなければなりません。ニュートラルグレーに近いものがないので雲を基準にホワイトバランス補正をします。撮影は午前中のキリッと冴えた空気ということも意識しながらニュートラルよりやや青みを持たせたところに落ち着かせました。

これだけでも先ほどの状態と較べると濁りが取れ抜けが良くなります。逆に言えば他の要素をいろいろと調整した後ホワイトバランスを変更するのはトーンを崩しやすいとも言えるので、この辺りは最初にやっつけるに限ります。(LRのインターフェースは上から順にやっていけばだいたい上手くいくようになってます)

STEP3 ベースを整える

露出を補正

ホワイトバランスを決めたら露出を含め全体のバランスを調整します。露出補正から調整していきますが、この時ヒストグラム(右上の階調グラフ)の右端(ハイエスト)に余裕を持たせているのがポイントです。

光を演出するための白飛び

続いて基本補正のパラメータを調整していきます。ここでヒストグラム右上にある色域外警告をオンにしておきます。先ほどハイエスト領域に余裕を持たせておいたのは空のトーンの幅を見ながら光を作りたかったから。

色域外警告をオンにしておくと白飛び(または黒つぶれ)した領域を示してくれます。これを利用しまぶしい日差しを演出するために意図的に雲の中で最も明るい部分を白飛びさせます。ヒストグラムの両端数%は光や闇の演出のために残しておいたわけです。この手法、私が覚えたのは学生時代の映像(映画)の講義だったかと思いますが、ようやく活かせるようになってきました。

ちなみに本サイトのダウンロードページで配布しているLRプリセット、IW Contemporary Film Presetsシリーズではこの演出をするためのトーンカーブ設定になっています。

特にハイライト側はベースを真っ白よりやや落としてあるので画面内に強烈な光源がある場合は、トーンカーブの右端のポイントを上端へ持ち上げたり、さらに左へカットしていくことで強い光の表現がしやすくなっています。

一方の黒の領域は人の目で認識できる暗闇は案外真っ黒ではないことを考慮して、ボトムを底上げして不自然な黒さが出ないように配慮しています。

STEP4 トーンカーブや部分補正でキャラクターをつけていく

部分補正でキャラクターをつけていく

ベースができたらいよいよキャラクターをつけていきます。新緑の季節(といってもまだ芽吹いてない部分が多いですが)、朝の冷たくクリアな空気、中禅寺湖の美しいブルーといったあたりですね。

空気遠近法のための要素としてかすみは残しつつ手前からキリッと締めていくイメージです。

空気遠近法は、大気が持つ性質を利用した空間表現法です。例えば戸外の風景を眺めてみると、遠景に向かうほどに対象物は青味がかって見え、また同時に、遠景ほど輪郭線が不明瞭になり、対象物は霞(かす)んで見えます。
空気遠近法 – 武蔵野美術大学 造形ファイル

そのための基準として最もクリアに見えるべき足下の斜面をトーンカーブで整えます。

中間距離の補正

続いて明るさをコントロールする中で彩度を失ってしまった中遠景、段階フィルターで色の偏りやコントラストの補正をかけます。

HSLで色のバランス調整

この辺りからは完成に向けた細かな調整です。おおむね決まってきた補正ですが、冷ややかすぎる印象がありますのでHSLカラーで整えます。空・中禅寺湖の青は残しながら植物の青味を抜いていくといった調整です。

補正ブラシで主役にキレを

ラストです。中禅寺湖の対岸付近と主役の男体山の存在感がもう少し欲しいので補正ブラシでマスクを作って(赤い枠)明瞭度などでコントラストを一押しして…

新緑の中禅寺湖と男体山

日光半月山展望台から眺めた春の中禅寺湖と男体山のRAW現像完了です。

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