写真の構築プロセス、意図を明確にしながらRAW現像をすすめる – 紅葉の谷川岳編

2018-10-15

谷川岳(トマの耳)HDR

構図の意図

主題は雲の中に浮かび上がるトマの耳(谷川岳の山頂のひとつ)、山頂へ繋がる稜線にある岩(右手前)とそこから切れ落ちていく渓谷(左中央)、めまぐるしく変わる空模様と時折差す青空。個人的に谷川岳の全部がギュッと詰まったワンシーンです。

一般的な構図パターンに当てはめるとフィボナッチ螺旋構図に収まります。

フィボナッチ螺旋構図

要素の配置的にはフィボナッチ螺旋構図に収まっていますが、それ以上に前後の質感の対比、左右の凝縮感と抜けの対比と言った要素を組み立てていった結果であって、あまり最初から螺旋に収めようという意識はしていません。

フィボナッチ螺旋と実際の意識の線

参考までに、撮影時に私が感じている線の流れを赤線で表してみました。概ねフィボナッチ螺旋に沿っているのですが、意識としてはそれ以上に入り組んだ面の流れを気にしています。世界はそんなに単純な線で構成されてないよーということですね。ですので流れがある程度まとまりながらキマるアングルを考えるわけです。

撮影時に意識した色(補色とセパレーション)

彼岸花の記事で補色について触れましたが、今回の写真も紅葉と(一部分ですが)青空という補色関係ができています。というより撮影時にそれを意識していました。

晴天の紅葉というととても鮮やかで目に映えることは想像に難くないと思いますが、そのようなシチュエーションの写真で目がチカチカしたことはないでしょうか?ハレーションという補色などでコントラストが高い場合に起きる現象で、今回は撮影時にそれを回避するセパレーションという手法を使っています。セパレーションは補色関係になる色と色の間に無彩色を挟みコントラストを緩和する手法ですが、今回の写真では雲と岩がそれにあたる要素になっています。

露出が難しいときはHDRを使う

セパレーションと並んで今回の撮影時に気をつかったのは、雲という階調の扱いが難しいオブジェクト。極狭い階調の中にクラデーションを作るオブジェクトなので±1段の3枚の画像からHDR(ハイダイナミックレンジ)で処理しました。Lightroom標準でもHDR機能が用意されていますが、統合時により細かな調整が可能なNik CollectionのHDR Efex Pro 2を使っています。

Lightroom標準のHDRとの違いはDNGで保存されるLR標準に対し、HDR Efex Pro 2はTiffなどの非RAW形式になってしまうということです。ですのでレンズ補正やカメラプロファイルなどは統合前に処理してから統合します。HDR Efex Pro 2単体でもクオリティの高いレタッチは可能ですが、色のコントロールについてはLRの方が作業しやすいのでベースを作るところまでに留めます。

起動は書き出しメニューから

また、HDR Efex Pro 2は起動するのが少々分かりにくいので注意です。LRから他のソフトを起動する場合はたいてい右クリックから「他のツールで編集」でOKなのですが、HDR Efex Pro 2はなぜか「書き出し」メニューの中にあります。

統合は簡単

HDR Efex Pro 2の統合画面

起動はややこしいですが、立ち上げてしまえば難しいことはありません。各フレームの差分(動いた箇所)や色収差どうする?といった程度です。デフォルトのままでも問題ないことも多いので不都合がなければそのまま右下のHDR作成ボタンを押してしまえばOKです。

プリセットは豊富だが…

HDR Efex Pro 2のプリセット

HDR作成をすると編集画面に変わります。左にプリセット、右に各種パラメーターが並ぶLRに似たスタイルなのでそれほど迷わないと思います。ちなみにHDRと聞くと上図のようなゴリッゴリのスタイルを思い浮かべる人が未だに多く見受けられますが、基本的に1枚で収まりきらないとても広い階調を複数枚の写真から合成処理する手法というだけなのでナチュラルな仕上げ方も当然できます。

とはいえ…

HDRが登場した当時の名残なのかプリセットにはかなり濃いめの味付けのものが並んでいてちょっと使いづらい雰囲気なのでデフォルトから調整してきます。

Nik Collectionの代名詞「コントロールポイント」

Nikといえばコントロールポイント

細かいパラメータについては写真によってケースバイケースで個別の事例はあまり参考にならないので省略しますが、Nik Collectionといえばコントロールポイントによるマスク処理とそれによってもたらされる高度な部分補正です。

上はどこがマスクされているかを表示するモードで、白がより効果のかかる場所、黒が効果のかからない場所になります。画面中グレーの点で表されているのが前述のコントロールポイント。これらのそれぞれのポイントからマスク範囲が生成され、ポイントごとに露出やコントラストなど多岐にわたる個別補正が可能なのです。

そして、コントロールポイントを中心に生成されるマスクはご覧のようにディテールを拾いながら境目もナチュラルに処理してくれるため、作業を大幅に効率化してくれます。例えば右手前の岩の部分補正など、Photoshopで同じ事をやろうと思うと覆い焼き・焼き込みツールをブラシの設定を変えながら細かく作業を進めなければなりません。

ともあれ、HDR Efex Pro 2では細かなディテールの追い込みはせず、HDRで得られた豊富な階調と強力な部分補正機能でベースとなる画像をバランス良く作っておきます。ちなみにHDR Efex Pro 2で作業を終え右下の保存ボタンをクリックするとLightroomのカタログに自動で登録されるので、その後の作業もスムーズに進めることができます。

Lightroomに戻って仕上げていく

ベースを確認

HDR Efex Pro 2でベースができたらLRで仕上げていきます。前述の通りHDR処理はLR標準の機能よりHDR Efex Pro 2が扱いやすいですが、色のコントロールやトーンカーブなどLRの方が扱いやすい機能もありますので適材適所でやっていくと効率的です。特にLightroomのHSLカラーパレットで行える色相・彩度・輝度のチャンネル別の補正は素晴らしく扱いやすい機能です。

トーンカーブで全体のコントラストを整えます。ベースとの差が分かりにくいですが、雲のハイライト部分のくすみを抜き左の青空を少し締めました。この時のトーンカーブ編集のポイントはひとつのトーンカーブで画面全体を制御しきろうと考えないこと。

ちなみにLRのトーンカーブはポイントカーブとパラメトリックを併用することができます。

トーンカーブは滑らかな階調変化を作ることのできる機能なのでここでは空のバランスを重点的に整えています。逆に右下の岩などはやや暗い印象がありますが、後ほど個別に補正していくことにしました。

草紅葉の色を整える

続いてHSLパネルで草紅葉の色を整えます。ちょっと赤味が抜けすぎていたのでオレンジチャンネルをやや赤に寄せたりといった感じ。

ディテールを作り込んでいく

作り込むと書いてしまうと、0から描き込むとかCGじゃないかといった誤解を受けそうですが、あくまで写真の中にある特徴や位置関係のバランスを取る作業です。どこをどのように調整するのかという工程を今回は動画にまとめてみました。画像をステップごとに並べるより時間で変化を見た方が分かりやすいかなと…

作業は白レベルや黒レベルのみを編集するような補正ブラシで岩のエッジやシャドウを「引き出す」「押さえ込む」といったイメージをしながらすすめています。また、山頂手前の岩は明瞭度とコントラストを下げることで奥へ移動したように見える処理をしています。

感覚的には2次元の写真を編集しているというよりカメラのプレビューを見ながら3次元の模型を修正しているといったイメージです。

その後、左側の落ち込む谷のコントラストを弱めて雲との繋がりを馴染ませ、主題のピークをちょっと明瞭にしました。

完成

谷川岳(トマの耳)HDR

以上でレタッチは終了。完成です。

最後にHDR Efex Pro 2で作ったベースと完成した写真のビフォーアフターを並べておきます。

盛りだくさん過ぎたかなという気がしなくもないですが、TwitterPeingなどで質問いただければ追記・補足したいと思います。

今回みたいなレタッチはペンタブあると捗りますよ。