「写真を撮ろう」「シャッターを切ろう」と思ったとき、そこにはシンプルな動機があると思います。今回の題材になる奥多摩の橋では、薄暗い渓谷沿いの道に架かる橋にスポットライト的に差した光が紅葉に彩られて印象的なシーンを作っていたのがシャッターを切った動機になりました。
山間部を走る薄暗く人と通りもほとんどない林道、人は通らずともそこには日ごと、時間ごとに美しいシーンが存在しているとかそんなイメージを作っていくためにどうするとシンプルに伝わりやすくなるのかということを今回は考えてみたいと思います。
シャッターを切った動機を明確に意識する
左:撮影時|右:RAW現像後
何かを感じ写真を撮った、しかし自宅に戻り写真を取り込んでみるとなぜ撮ったのかいまいち分からなくなってしまうということはしばしばあります。最初から「こう撮る」と決めて撮影した場合にはあまり起きませんが、不意に訪れた印象的なシーンなどではテンションが上がってしまい衝動的に撮影したものの、時間が経ってしまうと何が動機だったのか記憶が薄れてしまいます。
撮影時に十分に画面の構成要素が詰められていればそれほど迷うことはないのですが、いわゆる撮って出し状態では主題としたかった場所以外が意図通りになっていないこともありますし、画面全体のバランスがイメージとマッチしきっていないということもあるでしょう。
そんな時、漠然とRAW現像を始めてしまうとどこに着地するべきか迷ってしまうことになりがちです。完全にとはいかなくても、どんな動機で撮影したのかということを明確にしておきます。まぁ、自分が撮影した写真です。だいたいは主題になるものに注目してしばらく眺めれば思い出せるでしょう。
余計なものはそぎ落とす
さて、動機(というか意図)が思い出せたところでRAW現像の方向を決めていきます。意図がハッキリと思い出せなかったということは裏を返せば画面の構成があいまいとも言えます。主題の露出や配置は決まっていても、その周辺が必要以上に主張していたり、視線の誘導を阻害していたりしていることがあります。光をコントロールしきれない屋外ならなおのこと。手を動かす前にどうやって画面を整理していくかを詰めていきます。
全体的な色合いやコントラストが定まってからの方が考えやすいのでカメラプロファイルと色温度、レンズプロファイルの設定だけ済ませた状態をベースにします。
この写真は薄暗い林道のなかに浮かび上がる橋にストーリー性を感じたもので、主題は光の当たった橋、副題というか演出要素として紅葉と落ち葉があります。それらをシンボリックに切り取ろうという意図からトンネル効果と放射線を複合したシンメトリー構図としています。なので、それらを邪魔してしまう要素はバシバシ切っていきましょうというのがRAW現像の方向性になります。
具体的には上の図のような方向性です。
中央を引き立たせるのは当然として、キレイだけど主題を邪魔する要素になっている左上の紅葉は沈め、逆にただの道路のディテールですが視線を誘導する補助になる部分は少し持ち上げます。
少し話が逸れますが、この手の作業は客観的に見た方が良い作業なので、慣れないうちは一旦この状態でプリントして直接ペンで書き込んでしまうのが分かりやすいです。PC(タブレットやスマホでの作業でも)で作業をするとどうしても画面と目が近くて冷静に見るという作業がしにくい面があります。やや精神論的に聞こえますが、客観性と物理的な距離は比例するので、よく分からなくなったらプリントを離れて見たり椅子から離れて画面を眺めると、何をすべきか落ち着いて考えやすくなります。
ダーマトグラフがあるとこの手の作業が捗ります。
方向性が決まっていれば作業はシンプル
方向性が決まってしまえば、やることはいたってシンプルです。
主題である中央の橋、ここに露出をあわせて撮影していますが、もう少しキリッとさせたいので少し明るくキリッと部分補正。
続いて目立ち過ぎる左上の紅葉を沈めます。キレイな色の紅葉ですが、トンネル効果を阻害している要因なので不自然にならない様に落とします。
最後は手前の道のディテールです。橋だけが仄暗い中に浮かび上がっているような状態になっているので、手前の地面から繋がるように明るさを調整。同時に落ち葉も少し明るくり左上で弱くなった紅葉要素を補えます。
完成
ということで簡単ですが完成です。
撮影時点でできるだけ完成像に近い状態にできているのがベターですが、屋外では必ずしも望んだ状態まで作り込めるとは限りません。「なぜ撮ったのか」「なにが撮りたかったのか」を見直して表現したかったもの・ことを分かりにくくしている要素があればそぎ落としてみようという話でした。